高知簡易裁判所 昭和34年(ハ)660号 判決 1961年1月30日
原告 植田鶴亀
右訴訟代理人弁護士 西村寬
被告 池井源吾
右訴訟代理人 池井ツユ
参加人 土居将真
主文
被告は原告に対し金五万弐千五百参拾四円を支払え。原告のその余の請求を棄却する。別紙目録記載の建物は参加人の所有であることを確認する。被告は参加人に対し金壱万壱千弐百八円を支払え。参加人のその余の請求を棄却する。原告被告間の本訴訴訟費用はこれを三分してその二を原告その余を被告の各負担とし、参加によつて生じた訴訟費用は原告と被告の平等負担とする。第一項に限り、原告において金壱万五千円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
原被告間の本訴について
本件建物が元訴外門田勝吉の所有で、これを同人が昭和三十一年十一月五日被告に対し賃料を一か月金七、〇〇〇円と定め毎月五日にその月分を支払う約で賃貸していた事実は、原被告間に争いのないところである。
証人門田勝吉、植田柳太郎の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告は訴外門田勝吉から右建物を昭和三十三年七月買受けて所有権を取得すると共に、同訴外人の被告に対する前掲賃貸人の地位をも承継した事実、次いで原告はその直後被告に対し右の事実を告知して爾後の賃料の支払いを求めたが、当時被告と右訴外人との間において、被告側には同訴外人に対する延滞賃料債務があり、反面同訴外人側には被告に対する他人の身元引受けに伴う保証債務があつたため、被告は原告よりの賃料の請求に応じなかつたところから、原被告及び同訴外人の三者間交渉の結果
1. 訴外門田勝吉の被告に対する身元保証債務額を金六〇、〇〇〇円に減額し、被告の同訴外人及び原告に対する昭和三十三年八月分までの延滞賃料全額を以てこれに充当する。
2. 被告は原告に対し同年九月分以降従前通り一ヵ月金七、〇〇〇円の割合による賃料を支払う。
との旨の約定がなされた事実及びその後被告の申入れにより原告は同年九月分の賃料の支払いを免除した事実、をそれぞれ認定することができ、証人山下貞喜の供述中右認定に牴触する部分は前掲証拠に照らし措信せず、その他に右認定を左右する証拠はない。
その後被告が同三十四年二月分を除き同三十三年十一月分以降の賃料の支払いを遅滞している事実は被告の自白するところであり、また同三十四年二月被告が原告に対し一か月分の賃料七、〇〇〇円を支払つた事実は原告の認めるところであるが、右金員が同月分の賃料に支払われたということについてはこれを認め得る証拠がなく、却つて証人植田茂の供述によると、右は同三十三年十月分の延滞賃料に充当された事実が認められるから、右充当方法についての被告の主張は当らない。
次に原告が被告に対し、昭和三十四年六月九日到着の書面により、同三十三年十一月分以降同三十四年五月分までの延滞賃料合計四九、〇〇〇円を、該書面到達後七日以内に支払うべくもし右期間内に履行しないときは右期間の満了を以て賃貸借契約を解除する旨の催告をした事実、右催告にも拘らず被告がすべて履行しなかつた事実及び本訴提起後である同三十四年十月末日被告が本件建物を明渡した事実、はいずれも原被告間に争いがない。
してみると本件建物についての原被告間の賃貸借契約は、昭和三十四年六月十六日を以て解除されたものというべきである。それゆえ被告は原告に対し、同三十三年十一月一日以降右解除の日まで一か月金七、〇〇〇円の割合による延滞賃料と、解除の日の翌日以降その占拠に伴う損害金の支払いをなすべく、その損害金の額は右賃料と同率の一か月金七、〇〇〇円の割合によるのを相当とするから、原告の被告に対する右賃貸借存続期間内における延滞賃料並びに賃貸借契約解除の日の翌日以降同三十四年九月十一日までの右同率による損害金(九月十一日の損害金中三二円余は抛棄)合計七二、五三四円の請求は理由がある。
そこで右債権に対する被告の相殺の抗弁につき案ずるに、成立に争いのない甲第三号証によれば、被告は当初本件賃貸借をなすにあたり、賃貸人たる訴外門田勝吉に対し金二〇、〇〇〇円を敷金として交付している事実を認定することができ、この認定を左右する証拠はない。ところでこうした敷金についての返還債務と賃貸人の地位の異動との関係を考えるに、敷金の返還債務は他に特段の事情のない限り、賃貸人の地位の移転に伴つて当然に承継されるものと解すべきが故に、右訴外人から賃貸人たるの地位を承継した原告は、他に特段の事情の認められない本件においては、その承継と共に敷金返還債務をも承継負担したものというべく、従つて原告は被告に対し、被告が既に、賃借建物を明渡した今日においては、もはや履行期の到来として右敷金を返還すべき義務があるから、被告の抗弁は理由があり、結局被告は原告に対し、前掲原告の請求金七二、五三四円と右敷金二〇、〇〇〇円とを対当額で相殺した残額、金五二、五三四円の支払いをなすべきである。
よつて原告の請求は右金額の限度において正当として認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却する。
参加人の参加について
先ず参加申出の適否を調べる。参加人が本訴の原告及び被告双方を相手方とし、前掲参加の趣旨及び理由を具して参加の申出をしたのは昭和三十五年二月二十七日であり、その当時における原告の被告に対する本訴請求は、本件建物につき、所有権に基く返還請求と賃貸借契約解除による原状回復義務の履行請求との競合する請求権に基くものとして建物の明渡しを求め、且つ右建物に対する延滞賃料並びに使用損害金の支払いを求めていたのであるが、その後同年九月二十二日午後一時の本件口頭弁論期日において原告は、右建物明渡しの部分並びに同三十四年九月十一日中の一部分及び同月十二日以降の右建物の使用損害金の請求を抛棄したのであつて、以上の各事実は弁論の全趣旨に徴し当裁判所に明らかな事実である。してみると参加人の参加申出当時においては、参加人の主張せんとする権利すなわち本件建物の所有権に関連し、本訴原被告間に訴が係属中であつたのであるから、その参加申出後において原告が被告に対し係争中の本件建物の明渡請求乃至はこれが使用損害金の請求の一部を抛棄したとて、そのゆえを以て参加の適否に消長を来すものではなく、その他の点についてみるも参加人の参加の要件には何等欠くるところはないから、本件参加申出は相当の理由がある。
そこで以下進んで参加人の請求の当否を検討する。
参加人が本件建物を昭和三十四年九月十二日高知地方裁判所の競売手続において競落してその所有権を取得し、同月二十九日所有権取得の登記を了した事実は原告の自白するところである。而して参加手続後における口頭弁論期日に被告が合式の呼出しを受けながら出頭せず、参加人の主張に対し答弁書も提出しないことは前掲の通りであるから、民事訴訟法の定めるところにより被告は参加人の前掲主張事実を自白したものとみなすべきである。そうすると本件建物は参加人の所有に属するものというべきであり、本件係争の経過からみて、参加人においてこれが所有権の確認を求めることにつき、訴の利益を有することもまた多言を要しないところであるから、この点についての参加人の請求を相当として認容する。
次に参加人の被告に対する本件建物の占有に基く損害の請求につき案ずるに、参加人が本件建物の所有権を取得した昭和三十四年九月十二日以降同年十月三十日に至るまでの間、被告が本件建物を占有していた事実は前示の如く被告の擬制自白にかかるところであつて、その占有が権原に基くものであることについては何等の主張も立証もないのであるから、畢竟右占有は不法占拠というの他はない。それゆえ被告はその占拠により所有者たる参加人に生じた損害を賠償すべく、その額は本件建物についての従前の賃料額に徴し、右賃料と同率の一か月金七、〇〇〇円の割合によるのを相当とするから、被告は参加人に対し、その占有日数に応じて右同率により算出した金員を支払うべきである。而してその金額は同年九月分の一九日間は金四、四三三円三三銭余、同年十月分の三〇日間は金六、七七四円一九銭余となること計数上明らかであつて、その合計は金一一、二〇七円五二銭余となるところ、小額通貨の整理及び支払金の端数計算に関する法律第一条第一項により、右合計額は金一一、二〇八円と計算すべきであるから、参加人の被告に対する請求は、右金額の限度において正当として認容し、その余は失当であるからこれを棄却する。
訴訟費用の負担並びに仮執行の宣言について
訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用し、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用する。よつて主文の通り判決する。
(裁判官 市原佐竹)